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【獣医師監修】猫にユリは絶対ダメ!命を奪う中毒の症状と飼い主ができる対処法

獣医師に抱かれる猫

猫がユリを誤食すると危険な理由

猫がユリを誤食した場合に最も恐ろしいのは、致死性の高い「急性腎障害」を引き起こすことです。これは、ユリ科植物に含まれる毒性成分が、猫の体内で腎臓の細胞組織を破壊してしまうために起こります。

腎臓は、血液をろ過して体内の老廃物を尿として排泄し、体液のバランスを保つ生命維持に不可欠な臓器です。この腎臓の細胞が破壊されると、機能が急速に失われ、体内に毒素が蓄積する「尿毒症」という危険な状態に陥ります。残念ながら、猫の体にはユリの毒素を分解する能力がなく、人間や犬では問題にならない量でも、猫にとっては致命的となってしまうのです。

危険なのは、ユリの花びらだけではありません。葉、茎、球根、そして花粉に至るまで、植物のすべての部位が猫にとって有毒です。さらに、ユリを生けていた花瓶の水を飲むだけでも、中毒を起こす可能性があります。ほんのひとかけらをかじった、花粉がついた体を舐めた、それだけのことで取り返しのつかない事態になる危険性を、飼い主さんは必ず理解しておく必要があります。

猫がユリを食べた場合に引き起こされる症状

動物病院で診察を受ける猫

ユリ中毒の症状は、摂取後の時間経過とともに変化し、急速に悪化していくのが特徴です。初期のサインを見逃さず、いかに早く異変に気付けるか、が治療の鍵を握ります。

食後数時間以内に現れる初期症状

ユリを摂取してから比較的早い段階、多くは数時間以内に見られる初期のサインです。この段階では、一見すると軽い体調不良のように見えることがあり、注意深い観察が求められます。具体的には、繰り返す嘔吐、食欲の完全な消失、よだれを頻繁に垂らす、元気がなくなりじっとうずくまる、といった症状が挙げられます。

摂取後1~3日で進行する重篤症状

初期症状が現れた後、適切な治療が行われない場合、急性腎障害は急速に進行します。摂取から1日から3日が経過する頃には、極めて重篤な症状が現れ始めます。腎臓の機能が停止に向かうため、尿がほとんど作られなくなり、排尿の回数が極端に減るか、全く尿が出ない「無尿」状態になります。こうなると体はぐったりして動けなくなり、意識が朦朧とすることもあります。最終的には、体内に溜まった毒素の影響でけいれん発作などを起こし、死に至る可能性が非常に高くなります。

猫がユリを食べたときの正しい対処法

動物病院で診察を受ける猫

愛猫がユリを口にした、あるいはその可能性があると気づいた瞬間、飼い主さんはパニックに陥るかもしれません。しかし、ここでの冷静な判断と迅速な行動が何よりも重要です。

飼い主ができる応急処置は存在しない

まず、最も重要なことをお伝えします。ご家庭でできる有効な応急処置はありません。特に、自己判断で塩や薄めた洗剤などを使い、無理に吐かせようとすることは危険ですので控えてください。

これらは猫の体にさらなる負担をかけ、食道や胃を傷つけたり、状態を悪化させたりする危険性が高い行為です。飼い主さんがすべきことは、応急処置ではなく「一刻も早く動物病院へ連絡し、指示を仰ぐこと」です。

動物病院へ向かう前にすべきこと

ユリを食べてしまったかもしれないと気づいたら、症状が出ていなくても、少しでも異変を感じたらかりつけの動物病院へ電話をしてください。その際、獣医師が的確な判断を下せるよう、落ち着いて状況を伝えることが大切です。具体的には、「いつ頃」「ユリのどの部分を」「どのくらいの量」食べた可能性があるかを伝えます。もし、食べてしまったユリの現物や、それが写っている写真があれば、受診の際に持参すると診断の助けになります。

動物病院で行われる治療

動物病院では、中毒の進行を食い止め、腎臓を保護するための治療が直ちに開始されます。中心となるのは、血管から点滴を行う「静脈内輸液療法」です。大量の点滴によって血流を維持し、尿量を確保することで、体内に吸収された毒素の排出を促します。また、摂取してから時間が経っていなければ、毒素がそれ以上体に吸収されるのを防ぐために、活性炭などの吸着剤を投与することもあります。ユリ中毒の治療は、まさに時間との戦いです。一般的に、摂取後6時間以内に治療を開始できれば、救命できる可能性が高まるとされています。

猫がユリ中毒になって入院した場合の治療費例

動物病院で診察を受ける猫

もし愛猫がユリ中毒になり、入院が必要になった場合、治療費はどのくらいかかるのでしょうか。ここでは、具体的な治療費の事例と、ペット保険を利用した場合の補償について解説します。

「ユリ中毒」の治療費事例(1)

病名 急性腎不全(ユリ中毒)
猫種 ミックス(雑種)
年齢 10歳
内容 ・入院
・血液検査
・超音波検査
・点滴
・注射 など
手術費(0回) 0円
入院費(12日) 238,200円
通院費(1日) 9,570円
合計 247,770円

保険の支払い事例

プラン 補償額 飼い主さん負担額
プラン50スタンダード 123,885円 123,885円

※こちらの診療費は参考例です。実際の診療費などは病院によって異なります。

※2025年3月に実際にあった請求事例になります。

「ユリ中毒」の治療費事例(2)

病名 誤食(ユリ)
猫種 ミックス(雑種)
年齢 12歳
内容 ・入院
・血液検査など
手術費(0回) 0円
入院費(2日) 36,710円
通院費(0日) 0円
合計 36,710円

保険の支払い事例

プラン 補償額 飼い主さん負担額
プラン70スタンダード 25,703円 11,007円

※こちらの診療費は参考例です。実際の診療費などは病院によって異なります。

※2025年2月に実際にあった請求事例になります。

猫のユリ中毒を予防する方法

動物病院で診察を受ける猫

ユリ中毒の恐ろしさを知れば、何よりも「予防」が重要であることがお分かりいただけるはずです。愛猫をこの悲劇から守るための最も確実で唯一の方法は、猫の生活空間にユリを一切持ち込まないことです。

ユリ科植物を家に置かない

カサブランカ、テッポウユリ、オニユリ、ヒメユリなど、ユリと名のつく植物はもちろんのこと、ユリ科の植物全般を自宅に飾ることは避けてください。お祝いなどで花束をいただいた際にユリが含まれていた場合は、残念ですが猫の安全を最優先し、家の中には入れずに処分するか、猫が絶対に入らない隔離された部屋に飾るなどの徹底した管理が必要です。

花粉の飛散にも注意

ユリの危険性は、直接食べることだけではありません。ユリの花粉は非常に細かく、風に乗って広範囲に飛散します。飼い主さんの衣服やカバンに付着した花粉が家に持ち込まれ、その体をグルーミングした猫が中毒を起こしたという事例も報告されています。ユリが飾られている場所へ出かけた際は、帰宅後すぐに着替えて手を洗うなど、花粉を持ち込まない配慮も重要です。

屋外の危険性

猫の安全を考えるならば、完全室内飼育を強く推奨します。屋外には、誰かの庭に植えられたユリや、自生している有毒植物など、予測不可能な危険が数多く存在します。好奇心旺盛な猫が、道端の植物を口にしてしまうリスクは決してゼロではありません。

猫と暮らすうえで注意すべき花や観葉植物の種類

動物病院で診察を受ける猫

猫にとって危険な植物はユリだけではありません。私たちの暮らしの中には、他にも注意すべき植物が数多く存在します。ここではその一部をご紹介します。

ツツジ科の植物

サツキやアザレア、シャクナゲといったツツジ科の植物には、「グラヤノトキシン」という有毒成分が含まれています。これを摂取すると、嘔吐や下痢、よだれといった消化器症状のほか、神経系に作用してふらつきや麻痺、血圧低下や不整脈など、心臓に関わる重篤な症状を引き起こすことがあります。

サトイモ科の植物

ポトスやモンステラ、スパティフィラム、カラーといった観葉植物として人気のサトイモ科の植物には、針のように尖った「シュウ酸カルシウム」の結晶が含まれています。これを口にすると、結晶が口の中や喉の粘膜に突き刺さり、激しい痛みや炎症、よだれ、嘔吐などを引き起こします。

その他注意すべき植物

球根に特に毒性の強い成分を含むチューリップやヒヤシンス、スズラン。嘔吐や下痢、心不全などを起こす危険のあるシクラメンやアジサイ。クリスマスシーズンによく見かけるポインセチアや、観葉植物として人気のドラセナ(別名:幸福の木)なども、猫が口にすると嘔吐などの消化器症状を示すことがあります。植物を家に置く際は、その種類が猫にとって安全かどうかを必ず確認する習慣をつけましょう。

猫とユリに関するFAQ

動物病院で診察を受ける猫

Q. 猫がユリの花粉を舐めただけでも中毒になりますか?

A. はい。花粉を舐めるだけでも致命的な中毒症状を起こすことがあります。すぐに病院へ連絡を。

Q. ユリの種類によって毒性の強さは違いますか?

A. 種類を問わずすべてのユリ科植物が危険です。特にカサブランカやテッポウユリは強い毒性があります。

Q. 猫がユリを食べたが元気そうです。様子を見ても大丈夫?

A. いいえ、症状が出る前でも腎障害が進んでいる可能性があります。必ずすぐに動物病院へ。

まとめ

動物病院で診察を受ける猫

美しいユリが、愛猫にとっては命に関わるほどの猛毒であるという事実を、ご理解いただけたでしょうか。ユリ中毒の恐ろしさは、ごく少量で重篤な急性腎障害を引き起こす点にあります。中毒を疑った場合は、症状の有無にかかわらず、一刻も早く動物病院を受診してください。自己判断での応急処置は危険です。

そして、何よりも重要なのは、悲劇が起こる前にそれを防ぐ「予防」です。愛猫の生活空間にユリを持ち込まないこと。これが、飼い主さんが愛猫のためにできる最も確実で、最も愛情深い選択です。

愛猫の安全は、飼い主さんの日々の注意深さと正しい知識によって守られます。この記事が、あなたと大切な家族である猫との健やかで幸せな暮らしを続けるための一助となれば、これに勝る喜びはありません。

獣医師:葛野宗

監修者プロフィール

獣医師:葛野宗
かどのペットクリニック・副院長

2009年麻布大学獣医学部獣医学科を卒業。 2015年から横浜市内で妻と動物病院を営み、犬、猫、エキゾチックアニマルの診療を行なっています。 2024年現在、犬10頭、猫3頭、多数の爬虫類と暮らしています。 愛犬家、愛猫家として飼い主様に寄り添った診療を心がけています。 内科(循環器、内分泌など)、歯科、産科に力を入れています。

記事の提供/ねこちゃんホンポ(https://nekochan.jp/

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※掲載している内容は、2025年7月17日時点のものです。
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